本記事では、前回の後編として、脚本家の中川さんにインタビュー。脚本家として今の地位を築くに至った経緯や、映像を中心としたコンテンツ業界の動向、現代で脚本家になるとはどういう意味なのかを伺った(前回の記事はこちら)。
適切な自己アピールの仕方とは
中川:いわゆる修行期間は、努力と忍耐の時期とも言えるでしょう。それと同時に、自分の強みを見極めて適切にアピールすることも重要です。その意識を持つだけで、ステップアップの速度が上がるはずです。
遠山:なるほど。中川さん自身はどのようにアピールされたのでしょう。脚本家の卵の時代はどう過ごされていたのですか?
中川:最初に通ったシナリオスクールが、何となく自分には合わないように感じたので、途中で芦沢俊郎シナリオ研究塾に入り直しました。そこでは講師の言葉に度々目から鱗が落ちる思いがしましたし、生徒が出している原稿もレベルが高いと感じました。ここで学べばきっと脚本家になれると感じられたんです
遠山:「とにかくスクールに通えば脚本家への道が開かれる」と安易に思い込まずに、内容を見定めていたんですね。
中川:その後、企画書作りなどの仕事をもらうようになったきっかけは、制作会社主催の勉強会に参加したことです。そこでの課題は、実際に制作予定の企画へのアイデア出しや企画書作りでした。その会社のプロデューサーからフィードバックがもらえたので、プロデューサーとの出会いの場でもありました。
遠山:どう自分の能力をプレゼンしたのですか?
中川:あえて、ちょっと偉そうに振る舞っていました。
遠山:偉そうに?
中川:自分以外の脚本家志望の人たちの振る舞いを見ていて、「みんなよく似ているな」と思っていたんです。とにかく従順に、「聞き分けの良い新人」として振る舞う人が多いなと。それで、自分はその中で埋もれない方がいいと考えたんですね。たとえ新人でも、「この人は他の脚本家とは違う何かを持っている」と思ってもらわなくては、「新人の起用」という冒険をしてもらえない気がしたので。
制作サイドも自分たちにない視点や切り口を求めているはずです。例えば「広告業界で働いているので、マーケティングを活かした脚本が書けます」「アニメカルチャーに通じているので、その要素を取り入れた脚本が書けます」といった具合に強みをアピールされた方が話を聞いてみたくなるはずです。
少なくとも「とにかくがんばります!」と言われるよりは、期待度が上がりますよね。ですから新人クリエイターであっても、適切な自己アピールは肝要なのではないでしょうか。傲慢になったり、社会人としての規範を破るのは逆効果ですが、他の人とは違う強みを見せた方が評価はされやすくなるはずです。
遠山:確かに、謙遜した態度や振る舞いは必要ですが、どのコンテンツ業界も、いつでも新しい力、才能を持った人を待っています。コンテンツ産業のビジネスモデルが大激変を迎えている今、その提案をしてくれる人をみんな求めていると感じます。
中川:はい。そう信じていたので私は、「まだまだ新人なので」とへりくだるよりも、「私はこういうものを書くのが得意だと思います」と伝えることを心がけていました。プロデューサーに対等な仕事相手として見てもらえることを目指していたわけです。
中には「新人なのに偉そう」と思っていた人もいると思いますが、あまり気にしませんでした。そういうアピールが私の個性には合っていて、差別化ポイントだと思っていたので。制作会社やプロの脚本家が行う勉強会には度々参加していましたが、参加後に「一人だけ骨のある人がいるなと思った」という意味合いのことを言われ、企画書作りなどを依頼されることが多かったです。
「みんなと同じ」はクリエイターにとって命取り
遠山:ちょっと偉そうにすることで、相手の期待感を醸成し、仕事を依頼したくなる状態にしたということですね。
中川:ただ、この経験を脚本家志望の人に話すと、「とにかく強気でガンガン行けばいいんですね!」と言われることがあるんですが、それは少し違うと思っていて…。私には”ちょっと偉そう戦略”が合っていただけで、自己アピールの仕方は一人一人、自分に合ったものを選んでほしいんです。
でも、とにかく嫌われないように何の主張もしないですとか、空気を読んで常に周りと同じように振る舞うというのはクリエイターとしては命取りにもなりかねない。同様に、教室にただ漠然と通ったり、いつか誰かが声を掛けてくれるのを期待するだけの「待ちの姿勢」も危険ではないでしょうか。
能動的に自分の勝機を探すこと。意見をいうべきところで必要以上に空気を読み過ぎない。時には相手に求められていないことまで、「自分ならできる」とやって見せるですとか、自己アピールの方法はいろいろあり得ます。その意識を持つだけでも、周りから何歩もリードできるはずなんですよ。
遠山:文芸含め本の著者も同じ傾向があると思います。せっかく編集者と会うパーティーなどの機会があっても、自分からは声を掛けずにただ一人でご飯を食べるだけ。誰かに繋げてもらっても、自分から話を広げたりアピールしない。それで後々作品を出してくれる出版社がないと困ってしまったり…。そういった事情から、自分から動ける作家は貴重なので、企画が本になりやすい。売れっ子になった方は、もちろん優れた才能も持っていますが、同時に行動を恐れない心も持っていると感じます。
中川:目立つ行為をしている人を叩く人はいつの時代もいます。でも、誰かの目を気にしている場合じゃない。本気でなりたいなら。
中川千英子さんの最新情報
講談社発クロスメディアコンテンツ「ハンドレッドノート」YouTube動画
スワロウテイル ストーリー編『裏切りの窓』
事件編 https://youtu.be/UAUFgO-ppCw?si=Aa_s_SVefzBxmAFl
捜査編 https://youtu.be/epsCT98f1Nc?si=WsP9JnzvWeKjefrz
解決編 https://youtu.be/vVIv2fkqvro?si=ULnkqqC3jJ6Vu0e9
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