中川千英子さんは芦沢俊郎シナリオ研究塾にて作劇を学び、今では映画、テレビドラマの脚本を手がけ、NHK朝ドラのノベライズなど幅広い執筆活動を行っている。noteなどSNSでも脚本家になりたい人に向けて積極的な情報発信を行い、制作者として自立するための総合的なスキルをを提供している脚本家の一人だ。本記事では、中川さんが脚本家としてデビューした経緯や、脚本家になる方法、そして映像を中心としたコンテンツ業界の動向について伺った。(取材:遠山怜)
コンクールでの受賞だけが脚本家の入口ではない
遠山:例えば出版業界でいえば文芸作家の場合、出版社が行っている文芸賞などに作品を応募して大賞を勝ち取り、作家としてデビューする方が一定数います。このように著名な賞を獲ることが、作家としての登竜門の一つだと言われています。映像業界ではコンクールでの受賞は、主催者がテレビ関係者と繋げてくれたり、次の作品の脚本を振ってくれたりと、脚本家になる手法としては確立されているのでしょうか。
中川:もちろん、コンクールで受賞できれば脚本家になれる可能性はグッと上がります。しかし、本当に脚本家になりたいのであれば、コンクール応募以外にも、デビューに近づく手立てはないか目を向けるべきだと私は思います。
遠山:中川さん自身はどうされたのでしょうか?
中川:私もコンクール(脚本家の登竜門として設けられている賞)に度々応募しましたが、そこでは受賞していません。実は、コンクール受賞者ではない人でも、脚本家になっているケースは多いんです。有名どころでいえば宮藤官九郎さんなども、そのはずです。
遠山:有名な方でもコンクール受賞しているとは限らないんですね。
中川:特に、著名な賞であれば、1回の開催につき2000作近くの応募があると言われています。その中で映像化されるものがあるとしても、1作だけ。狭き門です。
遠山:受賞できる可能性がそもそも低いのですね。確かに有名な文芸賞でも書籍化されるのは、受賞作品のうち、1、2作くらいだったりします。様々な賞で佳作に引っかかった経験はあるが、そこから先のデビューになかなかつながらないという人は、少なくない。
中川:もちろんコンクールに挑戦する価値はあります。有名なものであれば、入賞したり最終選考に残ったりすると、プロデューサーと知り合う場が提供されたり、作品のアイデア出しや企画書書きなどの仕事に繋がることも多いはずなので。
提出したアイデアが面白ければ、実現して映像化される可能性もありますし、そこまでいかなくても見どころがあると思ってもらえたら、次回以降お声がかかることも。
遠山:なるほど、その機会はチャンスですね。
中川:はい。ですが、次のコンクールが開催されてその年の受賞者が決まったら、また同じ立場の人が増えるわけです。筆力を認められた人たちが団子状態になる中で、いかに制作サイドに自分を売り込めるかが重要です。
「ひたすら我慢」という姿勢が脚本家への道を閉ざすことも
遠山:そのまま長期間、アイデア出しや企画書作りだけを続ける人もいるのでしょうか?
中川:そういうこともあり得ます。この時期は急な打ち合わせに対応したり、短期間で原稿をまとめたりと、「修行」のような部分があるのも事実です。その間に、現場で生きる筆力が身に付いていくとも言えます。
遠山:与えられたわずかなチャンスの中で、自分の持ち味や表現したいことをどう形にできるか調整したり、他の制作関係者との信頼関係の結び方を実際の現場で学ぶ、貴重な機会ですね。
中川:ただし、この時期を「ただひたすら辛さに耐えていればいい」と捉えるのも、私は危険だと思います。「とにかく誰かに気に入られて、脚本家にしてもらうんだ」という受け身の発想よりも、「自分はどうやって脚本家になるのか?」と主体的に考えることが大切だと、自分の経験を振り返って思います。
また、修行期間に思考停止して、「とにかく我慢さえしていれば…」と思い込むと、やりがい搾取のターゲットにもなりかねません。どこまでを「意味のある修行」と捉えるのか、判断を迷うこともあるかもしれませんが、適切に情報収集もし、自主的に考えることを忘れないでほしいです。
遠山:確かに、どんなコンテンツ産業でも、誰かが自分の能力を評価して、力のある人が自分にやりたいようにやらせてくれるのを待つ…という姿勢でいると、せっかく機会を得ても物にできないかもしれません。チャンスを活かして活躍する第一歩を踏み出せた人は、自分から相手に売り込んだりするのを厭わない人だと感じます。もっとも、どんな方法であれば第一歩を踏み出す礎になるのか、明確な答えはないので、色んな方向に試しに足を出してみる必要はありますが。
中川:はい。人が通った道筋をそのまま真似ても、自分の個性には合わない場合も多々ありますから、自分ならどうするのがいいのか試しながら判断してほしいです。
中川千英子さんの最新情報
講談社発クロスメディアコンテンツ「ハンドレッドノート」YouTube動画
スワロウテイル ストーリー編『裏切りの窓』
事件編 https://youtu.be/UAUFgO-ppCw?si=Aa_s_SVefzBxmAFl
捜査編 https://youtu.be/epsCT98f1Nc?si=WsP9JnzvWeKjefrz
解決編 https://youtu.be/vVIv2fkqvro?si=ULnkqqC3jJ6Vu0e9
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